高血圧症
目次
1・血圧・高血圧症について
2・高血圧症の種類と分類
3・高血圧症の方の検査
4・高血圧症の治療と食事について
5・よくある質問
1・血圧とは
心臓は車のエンジンの役割を持つ重要な臓器で、送り出す血液が栄養や酸素を全身に届けます。血圧は拍動により全身に送り出される血液が血管の壁を押す力のことです。心臓が収縮して血液を押し出したとき血圧は高くなることを収縮期血圧、血液が心臓に戻って心臓は大きくなり血圧が低くなることを拡張期血圧といいます。
血圧の値は常に一定ではなく、興奮しているとき、ストレスを感じているとき、寒むい、運動とき、話をしているときなどで血圧は高くなります。また、リラックスしているとき、眠いとき、ここちいい気温のときなど血圧は低くなります。気温、運動、緊張などの心の状態などで拍動ごとに変化するため、1回の血圧測定で一喜一憂する必要はありません。
高血圧とは
安静にしていてもいつも血圧が高い状態を高血圧と言います。血圧が多少高くなっても自覚症状はないのが一般的です。高血圧を放置することにより血管が硬くなり動脈硬化が進行することにより、突然、心筋梗塞や脳卒中などの重大な血管病気を発症することから、「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」とも呼ばれています。
国内の高血圧の患者数は4,300万人以上と推定され、世界水準に比べ、はるかに塩分の摂取量の多い日本の国民病と言えます。近年の高齢化や食生活の欧米化により、今後もさらに患者数の増加が予想されています。
高血圧による動脈硬化の進行を抑え、重大な合併症を防ぐには、早期発見が非常に重要です。
健康診断で高血圧を指摘された方は、内科や当院のような循環器専門医を受診し、正確な血圧測定方法を習得するとともに生活習慣を見直すことが大切です。また、生活習慣の改善だけでは困難な方に対して内服治療で適正血圧をコントロールしていくことが健康で生活できる年齢を長く維持できます。
高血圧基準について
血圧は測定する環境がとても大切です。
室温22度以上のここちいい気温
起床後1時間以内
排尿後
朝の内服前・食事前
リラックスしているときの血圧が基準となります。
平日の忙しい中での血圧は高くなる傾向にあり、日曜日や祭日の方が実際の血圧に近い可能性があります。
下記基準値で何回か高値血圧になる方、健康診断で高血圧を指摘された方は受診することをお勧めいたします。
高血圧による合併症のリスク
血圧の高い状態が続くと、血管の内壁には常に大きな圧力がかかるため、血管の弾力性が失われて徐々に硬く・厚くなります。これが「動脈硬化」と言われる状態で、進行するにつれて血液の流れが悪くなり、血管が詰まる脳梗塞、心筋梗塞や血管がもろくなり、血管が破れる脳出血や動脈瘤破裂、解離性大動脈瘤やなどの命に関わる深刻な合併症を引き起こす可能性が高くなります。
また、心臓は無理に血液を送り出そうとするため、心臓の負担が大きくなるため心臓肥大になり、さらに進行すると心臓は十分な収縮ができなくなってしまうため、心臓の働きが悪くなって心不全の状態に陥ることもあります。一度、心不全の状態になると予後3年との統計があります。
高血圧の基準値
血圧には「収縮期血圧」と「拡張期血圧」があります。
- 収縮期血圧:心臓が収縮して血液を押し出す際にかかる圧力のこと。
最も血圧が高くなることから「最高血圧」。 - 拡張期血圧:全身から戻ってきた血液で心臓が拡張する時の血圧のこと。
血圧が最も低くなることから「最低血圧」。
高血圧治療ガイドラインでは、高血圧の基準を「収縮期血圧(最大血圧)を140mmHg以上、拡張期血圧(最小血圧)を90mmHg以上」と定めています。
ただし、診察室では緊張などで血圧が若干高めになるため、家庭で測定する時には診察室血圧よりも5mmHg低い「収縮期血圧135mmHg、拡張期血圧85mmHg」という基準が用いられます。
2・血圧値の分類
ガイドラインでは、「正常高値血圧」や「高値血圧」は高血圧の予備軍であり、運動、減量、減塩、野菜・海藻の摂取でコントロールできます。高血圧と診断された場合でも運動、減量、減塩、野菜・海藻の摂取も必要ですが、重症度がⅠ~Ⅲの3段階で重症度が上がるほど合併症を起こしやすくなるため内服薬も必要になります。
高血圧の種類
高血圧は、「本態性高血圧」と「二次性高血圧」の2種類があります。
本態性高血圧
原因ははっきりしませんが、遺伝、食事や運動などの生活習慣に関連して起こる高血圧です。
日本人の高血圧全体の85~90%がこのタイプであり、おもに中高年以降に多く発症し、加齢とともに患者数が増えるのが特徴です。
血圧のコントロールには、食事や運動などの生活習慣の見直しとともに内服薬も必要になることがあります。
≪本態性高血圧を招くおもな要因≫
- 家族性(遺伝、食習慣)
高血圧のご家族がいる方は、血圧が上がりやすい体質を受け継いでいる可能性があります。また、食べのも、味付けや飲酒・喫煙などの生活習慣がとてもよく似ています。 - 塩分の高い食事
塩分の摂取量が多く、血中の塩分濃度が高くなると、それを薄めるために血液量が増えます。過剰な塩分を排出しようとして腎臓に多くの血液が送られるため血圧が上がります。
ご家族に高血圧症の方がいる場合、子どもは小さい頃から塩分の多い食事に慣れているので、高血圧症と診断されるまで、自分の食事の塩分が多いとは気が付きません。世界の平均塩分摂取量は1日6gですが、日本人は1日11gの塩分を摂取しているのが現状です。減塩することが血圧を下げることおいて重要なカギとなります。
- 喫煙
喫煙は血管を収縮させるため、一時的に血圧が上がります。また、血流が悪化し、固まりやすくなることで動脈硬化による心筋梗塞、脳梗塞などの血管病を引き起こします。 - 肥満
肥満症は必要な酸素量が多いため、心拍出量や体内の血液量が増加して血圧が上がります。 - 加齢
年齢とともに血管の柔軟性が低下し、徐々に硬なる動脈硬化が進行するため、血圧が上がります。 - ストレス
過労、不眠および精神的なストレスによる交感神経刺激により血管が収縮し、血圧が上がります。
二次性高血圧
甲状腺、副腎、褐色細胞などの病気や内服している薬の副作用などによって起こる高血圧です。高血圧症のおよそ15%がこのタイプで、比較的に若い方に発症するのが特徴です。
二次性高血圧の場合、元となる病気を治療することにより血圧を治療します。
病態による分類
高血圧になると一日を通して常に血圧が高くなるタイプや朝や夜のみ高くなるタイプ、診察室・健康診断のときだけ高くなるタイプなど、いくつかのタイプが判明してます。血圧学会では、「診察室血圧」と「家庭血圧(診察外血圧)」を測定し、それぞれの血圧値の特徴から3つのタイプに分類しています。
- 持続性高血圧
診察室血圧と家庭血圧の両方が高くなる最も一般的な高血圧です。 - 白衣高血圧
家庭血圧は正常であるにもかかわらず、診察室血圧が基準値を超えるタイプです。
診察による緊張が原因と考えられていることから「白衣高血圧」と呼ばれています。
多くのケースではすぐに治療は行いませんが、将来、持続性高血圧になるリスクがあるため、定期的に血圧のチェックをお勧めしてます。 - 仮面高血圧
診察室血圧が正常にもかかわらず、家庭血圧が基準値を超えるタイプのため、健康診断だけでは発見しにくいタイプです。早朝に血圧が高くなる「早朝高血圧」、日中に血圧が高くなる「昼間高血圧(ストレス性高血圧)」、夜間に血圧が高くなる「夜間高血圧」の3タイプがあります。
3・高血圧の検査
高血圧の診断には、以下のような診察や検査を行います。特に合併症である心臓疾患のチェックが大切です。
- 問診:血圧測定、自覚症状の有無や生活習慣、持病の有無、内服薬などの確認。および適切な家庭血圧測定方法を指導して、家庭血圧をチェックさせていただきます。
- 血液検査:腎機能、甲状腺、腎臓、副腎などのホルモン異常の有無を調べます。
- 尿検査:尿を採取し、腎臓の有無などを調べます。
- 心電図:心肥大、虚血性心疾患や不整脈の有無などを調べます。
- 心エコー(超音波検査):心臓肥大、機能、弁膜症などの有無を調べます。
- 胸部レントゲン:心肥大、心臓不全、動脈硬化の有無などを調べます。
- 動脈硬化検査:CAVI/ABIといった血管年齢、足の動脈硬化や頸動脈超音波検査で脳梗塞や心筋梗塞の危険度を調べます。
- その他:頭部MRI、眼底検査も勧めています。
4・高血圧の治療
「生活習慣の見直し」
「薬物療法」
適正血圧にコントロールして、合併症の予防や進行を抑えるのが目的です。
治療目標値は
75歳未満では「診察室血圧130/80mmHg未満」
75歳以上では「診察室血圧140/90mmHg未満」
にコントロールすることにより、健康で暮らせる年齢がより長くなることが判明してます。
活習慣の見直し
生活を見直すだけで血圧が下がり、正常血圧になるケースも多く、夏は内服中止、寒くなる頃から春までのみ内服する方も当院には多くいらっしゃいます。ただし、生活習慣は継続することが大切なため、服薬治療の有無に関わらず習慣にすることがとても大切です。
≪生活の改善ポイント≫
- 減塩:塩分の排出効果があるカリウムの多い野菜や果物を積極的に摂取し、1日の塩分摂取量を6g未満に抑える。
- 肥満の解消:肉の脂身(バラ肉)、揚げ物などの摂取量を控えて、食事のカロリーを落とす。
- 節酒:1日につき男性は日本酒1合、ビール中瓶1本程度、女性はその半量に抑える。
- 運動:1日30分または週に180分以上、ウォーキング、早歩き、ジョギングなどの有酸素運動を行う。早歩きが膝のどの負担が軽く、効果が多きです。
- 禁煙:周囲の人の受動喫煙にも気を付ける。
- 睡眠:寝不足を解消し、十分な睡眠時間を確保する。
- ストレス解消:趣味やスポーツなどで適度にストレスを発散する。
- その他:急激な温度差を避ける、便秘を予防する(※強くいきむと血圧が上昇するため)など
薬物療法
生活習慣の改善だけでは血圧のコントロールが難しい場合には、降圧剤の服薬を併用します。
降圧剤にはさまざまなタイプがあり、患者さまの体調や気候の変化などに合わせ、適切な薬剤を選択します。
≪おもな降圧剤の種類≫
- カルシウム拮抗薬:血管の収縮作用がある「カルシウムイオン」が血管に入らないようにして血圧を下げる。
- アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB):血圧を上げる「アンジオテンシンⅡ」というホルモンの働きを抑える。
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬):アンジオテンシンⅡの産生を抑える。
- 利尿薬:尿の量を増やして血管内の食塩と水分量を減らす。
- β遮断薬: 心臓の過剰な働きを抑え、心拍数を下げる。
- α1遮断薬:血圧を上げる交感神経の働きを抑える。
- アルドステロン拮抗薬:血圧を上げる作用を持つ「アルドステロン」という物質の働きを抑える。
- 直接的レニン阻害薬:血圧調整に関わる「レニン」という酵素の作用を抑える。
- アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI):エンレスト ARB+血管拡張作用,利尿作用,交感神経抑制作用など様々な作用を発揮するホルモン作用薬の合剤です。2020年から高血圧、心不全治療薬に新しく加わりました。
収縮期血圧が160/以上になると急速に脳梗塞、脳出血、心筋梗塞の頻度が高くなるため、医師に内服を勧められる方は、自己判断して運動・食事量療法から始めるのではなく、内服も併用して、血圧のコントロールが良好になった時に、内服を中止することができるか判断したほうが安全です。
服薬治療開始時には、だるさ、動悸、頭痛、めまい、むくみなどの副作用が現れることがあります。自己判断でお薬を止めてしまうと血圧のコントロールができなくなり、余計に血圧が上がり、合併症が起こる可能性も高くなるため、必ず医師にご相談下さい。
また、循環器科の先生を受診している場合、降圧目的以外に副次的な効果が認められている内服薬から処方される場合がほとんどです。上に記載されているARB、ACE、ARNIなどのホルモンを介した薬の内服により血管のしなやかさを保つ作用により腎臓・心臓・脳疾患を防いだり、たとえ腎臓・心臓・脳疾患が起こっても軽くする効果も認められる保護薬としてとてもすぐれています。
5・よくある質問
なぜ血圧を毎日測る必要があるのでしょうか?
血圧は心臓1心拍ごとに変動します。脳梗塞、脳出血、心筋梗塞の重篤な病気が起こる時間は起床時です。リラックスする副交感神経から活動を促す交感神経に代わる時間に起こりやすいとわかています。血圧が正常な方は、週に1回でもいいと思いますが、高血圧と診断された方は不眠、日常のストレス、気温・天候不順による気圧変動によるストレス、体重の増加により血圧はさらに高くなることがわかっています。高血圧と診断された方は、可能でしたら起床時、入眠前の2回、1回につき3回血圧測定をお勧めします。難しい方は、祝日・日曜日だけでも起床時血圧測定をお勧めします。
室温が18度以下となる秋から春にかけて起床時の血圧上による血管の病気が増える季節を元気に過ごしましょう。
自宅での測定時にはどのようなことに気を付けたらよいですか?
部屋の温度は18から22度以上の暖かなお部屋で、起床後トイレを済ませてから5-10分間安静にできることが条件です。忙しい平日はあてにならないことが多く、祝日、日曜日の血圧が本当の血圧に近いと考えます。
エアコンの温度設定と室温は関係ありません。温度計を置いて、18度以下の場合、必ず、血圧は高くなるので、お布団の中で横になって測られてもいいと思います。
食事療法のポイントはありますか?
ミネラルの摂取だけで血圧は11mmHg以上低下します。
DASH食て聞いたことはありますか?DASH食とは、「Dietary Approaches to Stop Hypertension」の略で、高血圧を防ぐ食事法という意味です。もともと米国で高血圧改善のために推奨されていた食事法で塩分と炭水化物を抑えて、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)の3つのミネラルと食物繊維をたっぷりと取るという方法です。この3つのミネラルは塩分(ナトリウム)を排出する働きのため血圧が確実にさがります。食事療法を続けられる方は、確実に内服数の減少あるいは中止も可能と報告されています。